【地すべり等防止法とは?】不動産・建築関係者が知っておくべき規制内容と実務対応を徹底解説(第1本/全2本)
第1章:地すべり等防止法とは何か?
◆ 地すべり等防止法の基本概要
「地すべり等防止法」は、急傾斜地や地すべり地帯など、自然災害のリスクが高い地域における災害防止を目的とした法律です。昭和33年(1958年)に制定され、農林水産省が所管しています。
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正式名称:地すべり等防止法(昭和33年法律第30号)
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目的:地すべり、がけ崩れ、急傾斜地の崩壊等を防止し、人命・財産を保護すること
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対象となる災害:
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地すべり災害
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急傾斜地崩壊
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土石流・がけ崩れなどの関連災害
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◆ 制定の背景
戦後復興期の都市開発が急速に進み、山間部の宅地造成が盛んになった時期に多くのがけ崩れ・地すべり被害が発生しました。これを受けて、農地だけでなく居住エリアの安全確保を目的に地すべり等防止法が作られました。
第2章:対象となる区域の指定とその意味
◆ 地すべり防止区域
地すべり等防止法に基づいて、知事や国が「地すべり防止区域」「急傾斜地崩壊危険区域」を指定できます。
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地すべり防止区域:地すべり発生の危険が著しい区域で、地表の変動が観測される
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急傾斜地崩壊危険区域:傾斜度30度以上の崖地で、人家や公共施設に被害を及ぼす可能性がある
◆ 区域指定の効果
区域に指定されると、以下のような規制がかかります。
規制項目 | 内容 |
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建築規制 | 建築物の構造に制限。基礎工事や擁壁設置が必要 |
土地利用 | 掘削や盛土に対する許可制導入 |
開発制限 | 宅地造成等は届出・許可が必要 |
工事監督 | 行政による工事の監督・中止命令の可能性あり |
第3章:実際の指定事例と市区町村の対応
◆ 東京都八王子市の事例
八王子市では、台地の縁辺部に住宅地が集中しており、多摩ニュータウン開発に伴い、多数の崖地・傾斜地が宅地造成されています。市は「急傾斜地崩壊危険区域」を20箇所以上指定しており、建築に際しては安全対策計画書の提出が義務付けられています。
◆ 千葉県鴨川市の事例
房総丘陵部は地すべりの発生しやすい地形です。鴨川市では農業被害が頻発しており、農地再整備と同時に地すべり防止区域が複数指定されています。農業土木事業と連携し、排水路整備や地盤強化が進められています。
第4章:地すべり防止のための主な工事と手法
◆ 地表水排除工法
地すべりの主な原因は「地下水の過剰な浸透」です。したがって、排水路の整備や**地下水排除工法(集水井・横ボーリング)**などが重要です。
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集水井工法:地下に直径1〜2mの井戸を掘り、地下水を汲み上げる
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ボーリング排水:地下に横穴を掘り、水を排出する
◆ 抑止杭(ようしきゅう)設置工法
滑り面に対して垂直に鋼管杭を打ち込み、地盤の動きを物理的に止める方法です。公共施設や大規模宅地に用いられます。
第5章:不動産・建築実務に与える影響
◆ 宅地造成・開発行為の制限
区域内では造成・建築計画に行政の「技術的審査」が入るため、開発スケジュールやコストに影響します。
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開発許可申請におけるポイント:
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地盤調査書の添付
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排水計画の具体化
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崩壊リスクの算定資料
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◆ 建築確認申請との関係
地すべり防止区域では、建築基準法の他に地すべり等防止法の基準も同時に適用されます。建築士の確認ミスにより、工事中止命令や是正勧告が出るケースもあります。
第6章:違反時の罰則・是正措置
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無許可造成工事:30万円以下の過料
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行政代執行:是正命令に従わない場合、自治体が工事を代行し、費用を請求
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損害賠償リスク:災害による人身被害や近隣被害が発生した場合、事業者責任が問われる
第7章:不動産売買・賃貸における重要事項説明
◆ 宅建業者が注意すべき点
「地すべり防止区域」「急傾斜地崩壊危険区域」に該当する場合は、重要事項説明書(35条書面)での記載義務があります。
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【記載項目例】
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指定区域の有無
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工事制限・建築制限
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将来的な行政指導の可能性
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第8章:地すべり等防止法と他法令との関係性
第9章:地すべりリスク評価とIT・地図活用の最前線
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LIDAR地形データ:高精度な地形把握が可能
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地すべりモニタリング:センサーによる地盤変動の常時監視
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G空間防災マップ:GISを活用した地すべり危険分布図の導入が進行中
第10章:地すべり等防止法を活かした不動産戦略
◆ 危険区域の土地をあえて取得する戦略
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価格が安く取得できる
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安全対策済み土地は長期資産価値が上がる
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地域貢献型の公共補助金(防災事業)を受けられる可能性も
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