🏯古都保存法とは何か? 〜制定背景・目的から、現代における意義までを徹底解説〜 | sechs

🏯古都保存法とは何か? 〜制定背景・目的から、現代における意義までを徹底解説〜

🏯古都保存法とは何か?

〜制定背景・目的から、現代における意義までを徹底解説〜


✅はじめに|「古都の景観」が壊されていく時代の危機感

昭和40年代、高度経済成長の波が日本全国に広がる中で、歴史的な町並みを残す京都・奈良・鎌倉といった「古都」もまた、大規模開発や都市化の波に飲まれようとしていました。

高層ビルが建ち並び、道路が拡幅され、駐車場に姿を変える寺社仏閣の参道――。
「このままでは日本の精神文化そのものが失われてしまう」との危機感が広がり、国は一つの決断を下します。

それが、昭和41年(1966年)に制定された「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」、通称**古都保存法(ことほぞんほう)**です。

この記事では、古都保存法の背景から制度の仕組み、現代の意義までを不動産や都市計画の視点も交えて、詳しく掘り下げていきます。


🏛️1. 古都保存法の誕生背景|なぜこの法律が必要だったのか?

▶高度経済成長による開発ラッシュ

戦後復興から高度経済成長期にかけて、日本はインフラ整備・都市開発を急ピッチで進めてきました。
住宅地の開発、高速道路の敷設、商業施設の建設などにより、かつての風情ある街並みが急速に姿を消していったのです。

京都・奈良・鎌倉なども例外ではなく、

  • 寺社仏閣の周囲に大型マンションが建設される

  • 観光客向けの施設乱立による景観破壊

  • 開発行為による古墳・遺跡の破壊

といった事態が発生していました。

▶文化財保護法だけでは守れない「風景」

1950年に制定された文化財保護法は、確かに国宝や重要文化財などの個別の建造物を保護する力はありました。

しかし、**「文化財単体は守れても、その周囲の風景や空間までは守れない」**という限界が露呈したのです。

たとえば、

  • 法隆寺のすぐ隣に高層ビルが建つ

  • 宇治川のほとりにテーマパークが建設される

といったケースに歯止めが効かない――そんな法的な“スキマ”を埋める形で、古都保存法が誕生しました。


📜2. 古都保存法の正式名称と基本的な構造

▶正式名称

古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法
(昭和41年法律第1号)

いわゆる**「特別措置法」**であり、一般的な都市計画や開発法とは別に制定された、特定地域を対象にした“特化型法令”です。


🧱3. 古都保存法の目的と理念

古都保存法の第1条(目的)は以下の通りです:

古都における歴史的風土を保存し、もって文化国家としてのわが国の品位の保持に資すること。

これは、単なる「建築制限」や「景観保護」ではなく、日本という国家の“文化的品位”を守るための法律であるという意志が明確に示されています。

つまり、

  • 住民の暮らし

  • 観光や経済活動

  • 不動産開発

といったものとバランスを取りながら、“文化としての都市空間”を守るという極めて高度なミッションを担っているのです。


🗾4. 古都保存法の対象地域|指定された「古都」とは?

▶対象都市は現在7都市

古都保存法では、以下の7市が対象都市として「古都指定」されています(2025年時点):

都市名 都道府県 指定年
京都市 京都府 1966年
奈良市 奈良県 1966年
鎌倉市 神奈川県 1966年
宇治市 京都府 1970年
大津市 滋賀県 1970年
明日香村 奈良県 1974年
飛鳥地域(橿原市 奈良県 2007年(拡大)

このうち、京都市奈良市鎌倉市の3市が「三大古都」として特に重視されています。


🧭5. 「歴史的風土特別保存地区」とは?

古都保存法では、保存の対象を「歴史的風土特別保存地区」「歴史的風土保存区域」などに分類しています。

▶特別保存地区

  • 建築行為や開発行為が厳しく制限

  • 樹木の伐採や土地の形質変更も原則禁止

  • 新築・改築には知事の許可が必要

▶保存区域

  • 比較的緩やかな規制

  • 景観・風致を守るための条例が制定される

つまり、保存のレベルによって開発規制の強さが段階的に設定されているのです。


🏗️6. 他の法令との関係性|文化財保護法・都市計画法など

▶文化財保護法との違い

▶都市計画法との違い

このように、法律の理念が根本的に異なるため、両者をいかに調和させるかが実務上の大きな課題となります。


🏘️7. 古都保存法によるメリットと制限

▶メリット

  • 観光資源としてのブランド価値向上

  • 地域アイデンティティの強化

  • 長期的な経済効果(観光・文化振興)

▶制限

  • 不動産開発の自由が制限される

  • 建築費用の増加(景観への配慮義務)

  • 樹木1本の伐採にも許可が必要なケースも


📉8. 現代における課題|人口減少と空き家問題

古都保存法によって都市の風情は守られてきましたが、現代では次のような新たな課題も生まれています。

▶空き家の増加と再利用の困難

  • 保存地区では建築制限があるため、空き家を改築・転用しにくい

  • 若者や子育て世代が住みにくい

▶観光一極集中とオーバーツーリズム

  • 保存された街並みが観光地化しすぎて、地域住民の生活に支障

  • 土地の価格上昇、地元商店の衰退なども課題


🌏9. 海外との比較|ヨーロッパの都市保全制度と日本の違い

ヨーロッパでは「歴史的都市景観保全」が広く実施されており、

  • パリの「建築高さ制限」

  • ローマの「考古遺跡保護条例」

  • ウィーンの「ユネスコ都市景観登録制度」

など、国際的にも保全への取り組みが評価されています。

日本の古都保存法は、これらと比較しても**“法的強制力”が高く、“国家主導”で制定されている点で異例の存在**と言えるでしょう。


✅まとめ|古都保存法は「文化の都市計画」である

古都保存法は単なる法律ではありません。
それは、

“都市という空間を文化財と捉え、未来に残すための壮大な国家プロジェクト”

なのです。

文化・観光・不動産・住民生活――
あらゆる要素が交錯するなかで、古都保存法はこれからも「文化の都市計画」として機能し続ける必要があります。

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